永田法について
小耳症とは
小耳症ってどんな病気?
- 生まれつき、耳の形が完全でない病気を小耳症(しょうじしょう)といいます。
- 大きさがやや小さい、形が不完全である、ほとんど耳がない状態など、程度はさまざまです。
- 片方の耳だけ症状がある場合と、左右両方の耳ともに症状がある場合があります。
- 胎児のころ、耳の形が作られるプロセスで、何らかの異常があって耳の発達が止まってしまったことで小耳症になります。

小耳症だと、どんなことで困る?
- 眼鏡やマスクが使用しにくかったり、使用できなかったりします。
- 耳の穴が閉じている場合など、聴力障碍を伴うことがあります。
※両耳とも小耳症で、聴力障碍がある場合は、補聴器の使用や手術などが選択肢となります。 - 症状(耳の状態)がはっきりと見えるため、周囲から指摘されて患者本人に精神的負担がかかる場合があります。
永田法小耳症では、小耳症は大きく5つのタイプに分けます


1耳垂残存型(じすいざんぞんがた)
小耳症の典型的なタイプ。耳たぶと、耳が作られるときに本来なら消失するべき組織または器官が残った状態。

2小耳甲介型(しょうじこうかいがた)
①の状態で、さらに耳たぶの前に小さな陥凹がある状態。

3耳甲介型(じこうかいがた)
耳珠や不完全な耳甲介と狭い外耳道(耳の穴)も存在する状態。

4無耳症(むじしょう)
耳介が全く存在しない状態。本来あるべき場所から離れた位置に、小さな耳たぶや福耳が存在する場合もある。

5ローヘアーライン
①~④の症状で、耳があるべき位置が髪で覆われている状態。
※その他、治療対象となる耳介欠損には次のようなものがあります。
非定形型、第1第2鰓弓症候群顔面半側萎縮症および小耳症、他院で治療した耳介の再々建、埋没耳、スタール耳、折れ耳、カップ耳、ロップ耳、外傷による耳介欠損の再建術など。
治療の概要(永田法)
手術によって違和感のない耳を作ることが、小耳症の治療目的となります。
手術条件 | ● 10歳以上。 ● 胸囲(剣状突起での高さ)が60㎝以上。 *年齢が10歳以下でも、胸囲が60㎝以上であれば手術可能です。 *片側小耳症の場合は、胸囲60㎝以下でも手術可能です。 |
手術回数 | ● 片側小耳症は2回、両側小耳症は4回。 ● 1回目の手術後、半年以上を空けて2回目の手術を行います。 |
手術前の剃毛 | 1回目は耳の周りを約5㎝、2回目は1回目よりやや広く剃毛しますが、剃毛範囲は以前の永田法より狭くなっています。 |
手術時間 | 1回目約7時間(麻酔時間は約8時間)、2回目も同様です。ただし症例によって時間は異なります。 |
痛みや合併症対策、その他のフォローについて
- 全身麻酔に加え、安全性に十分配慮しながら神経ブロックを積極的に実施しています。神経ブロックにより、術後の痛みも半分以下に和らげることができます。
- さらに神経ブロックには、吐き気や嘔吐など術後の合併症を予防する、軽減するなどのメリットもあります。
- 集中治療室や一般病棟でも麻酔科医を中心とするチームによる疼痛管理を行い、速やかに対応します。
- 皮膚をよい状態に保つため、皮膚保護剤やテープなどにもこだわって、術後の処置を行っています。
- 手術施設は総合病院で、小児科医師が常勤しています。そのため術後管理だけでなく、何か他の病気があった場合も入院中に適切にフォローできます。
手術のおおまかな流れ
手術は小児麻酔科医による全身麻酔管理のもとに行います。
1回目手術(肋軟骨採取⇒肋軟骨フレーム作成⇒耳の位置にフレームを挿入)

- 肋軟骨を4本(6~9番)採取します。
- 採取した肋軟骨で耳の枠組みになる『肋軟骨フレーム』を作ります。
- 耳の本来の位置に『肋軟骨フレーム』を挿入します。
※この段階では、耳はまだ立っていない状態です。
2回目手術(肋軟骨採取⇒肋軟骨ブロック作成⇒ブロックを挿入して耳を立てる)

- 肋軟骨を2本(1回目とは反対側の6、7番)採取します。※十分な骨の量が採れる反対側の6、7番を使います。
- 採取した肋軟骨を使って、耳を立てるための土台『肋軟骨ブロック』を作ります。
- 浅側頭筋膜(TPF)という生きた血管膜と、頭皮から採取した皮膚(頭皮分層皮膚)を移植して補強し、『肋軟骨ブロック』を挿入して耳を立てます。
術後の生活や入院期間について
- 術後当日はICUに入室していただき、麻酔科医を中心とした術後疼痛管理チームにより、ていねいに経過を診ます。軽い食べものであれば、当日夜より食事が摂れます。
- 手術翌日には一般病棟に戻り、歩行も可能です。
- リハビリスタッフが体を動かす指導を行い、個人差はありますが、「翌日からゲームをする」「翌々日からオンライン授業を受ける」患者様もいます。
- 術後3日目には腰から下、1週間後には胸から下のシャワーが可能です。洗髪も術後1週間以内にできます。
- 入院期間は1回目、2回目ともに約3週間です。
永田法の特徴
肋軟骨で耳の形を作り、肋軟骨ブロックで耳介を支えて耳を立てます。
1胸の肋軟骨を4本採取して、耳の形を作ります。
4本の肋軟骨で6個のパーツを作り、それぞれのパーツを細いステンレスワイヤーと糸で固定して3次元の耳介の形を作ります。これを『3次元肋軟骨フレーム』といいます。

肋軟骨フレームと型紙(右)
- 肋軟骨以外で耳の形を作ることはある?
- デメリットが多いので、肋軟骨を使うのが一般的です。
肋軟骨以外ではシリコンや新しい素材であるMedpor(メドポア)を使う方法があります。しかし以下のようなデメリットがあるため、日本では肋軟骨を使うのが一般的です。
- ・シリコンで形を作って埋め込む、貼り付ける
- ⇒ 長期経過を見ると、埋め込んだシリコンが飛び出す、貼り付けたものが取れてしまうというトラブルがあります。
- ・Medpor(メドポア)という素材で形を作って埋め込む
- ⇒ 術後のトラブルが多く、日本では認可されていません。
- ・歯のインプラント同様に頭の骨に金属を打ち込み、シリコン製の耳を取り付ける
- ⇒ メンテナンスが面倒で、将来、肋軟骨移植手術を希望しても難しくなります。
- 肋軟骨を4本も取って、胸がへこまないの? 痛くないの?
- 肋軟骨は再生されるので陥没はなく、痛みの対応も適切に行っています。
肋軟骨の表面には肋軟骨膜という膜があります。この肋軟骨膜を残して肋軟骨本体のみを摘出すれば軟骨は再生されるので、胸がへこむ(胸郭陥没変形)ことはありません。永田法では、耳の形(フレーム)を作ったときに余った肋軟骨を2~3㎜の米粒大にみじん切りにして肋軟骨膜の中に入れ戻します。すると肋軟骨膜の中に自分の体液が貯まって、その中で新たに肋軟骨が再生されます。
胸がへこんでしまうのは、肋軟骨の採取方法に原因があります。
痛みに関してですが、肋軟骨膜を残して肋軟骨本体のみを摘出するため、肋間神経を傷つけず痛みも少ないでしょう。さらに肋間神経ブロックを行うなどの工夫や麻酔科医の適切なフォローで、術後の痛みも軽減しています。
- 2回目の手術で肋軟骨を2本取るのは、なぜですか?
- しっかりと立った耳の状態を保つためです。
永田法では耳の後ろ側に細工した肋軟骨を移植して、耳を立てます。健康な耳の耳介は平均20~30度ぐらいの角度で立っています。この角度を作るためには、耳介を後方から支える肋軟骨ブロックの厚さが14㎜必要です。そのため少なくとも2本の肋軟骨を取って、1本で広い半月上のベースフレームを作成。もう1本の肋軟骨を2ブロックに加工して、ベースフレームの上に別々に乗せて半月上になるように重ねて固定します。
この肋軟骨ブロックは、耳介が強固に安定して立った状態を保つため、下から見たときに、逆L字型になるように作成します。1本だけの肋軟骨ブロックだと、厚さ7㎜にしかならないので、左右対称に立った耳になりません。
【参考ページ】
2TPF、頭皮分層皮膚の使用
細工した肋軟骨を移植し、さらに浅側頭筋膜(TPF:浅側頭動脈を茎とする血行のよい組織)、頭から取った皮膚(頭皮分層皮膚)を移植して補強します。TPFは血行がよいので、作った耳が萎縮したり変形したりするリスクが少なく、術後の合併症も少ないと言われています。

- TPFや頭皮を使うのは、なぜですか?
- 血行がよいため、皮膚が縮んだり溶けたりしにくく、色や質感もマッチするからです。
血行が悪いと1回目、2回目で移植した肋軟骨が吸収されて耳の形が崩れる、立てた耳が倒れる心配があります。何十年間もきれいで、しっかりと立ち続ける耳を作るため、TPFを使うのです。
下腹部や鼠径部の皮膚を移植する方法もありますが、永田法では頭皮を使います。頭皮を使うメリットは以下の通りです。
- * 皮膚が縮みにくい
- * 鼠径部や下腹部の皮膚のように縮れた毛が生えてこない
- * 耳の後ろの皮膚と場所が近いので、色や質感が似ていて違和感がない
【参考ページ】